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【 友からの手紙 】 |
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屋上パフォーマンスを共に闘った友からの手紙 “サラリーマンがビルに登った日” 渋谷に向かう東横線の車窓に向かって、男性はビルの屋上から時折手を振りながら、それは気持ち良さそうに歌っていました。 私はといえば他の多くのサラリーマンやOL達と一緒に、身動きのとれない満員電車の中から外の風景を見るともなく眺めて、天気の日に現れるそんな男性を、これも他の人と同じように何とも思わずボーと眼で追っていました。 それにしても、何とも変わったいでたちの男性でした。 ヘルメットの上に秋刀魚を乗せ、真っ赤なマントを羽織りギターを弾いているのです。今時、そんなパフォーマンスが流行るわけでもなく、私も『そろそろ学芸大学か』などと通過駅の目印位にしか思っていませんでしたが、それでも無意識のうちにその姿を眼で追ってしまうのでした。 始めは、「やれやれ、何とも暇な御仁だ」「こちら側の人間の気持ちも知らないでいい気なものだ」「一体全体、何を考えて生きているんだろう」などと、中傷に近い気持ちと冷やかしに近い目で彼のことを追っていたものです。 ところがある日、『眺めているのは私ではなく、ビルの上の彼の方ではないか。「朝もはよからご苦労さん」などと歌っているのではないか?一体、彼から電車の中の私達はどう見えているんだろう』という疑問と同時に、自分が養鶏場の鶏のような気分になってきました。 それからはもう冷静に彼のことを、“観察(失礼)”する余裕もなく、自分の中で悶々としているこの気持ちにどう対処したものかと悩み続けました。今日は彼が居ないのではないか、もう現れないのではないかなどと、彼の存在を消し去ろうともしましたが、雨が降らない限り当たり前のように彼は歌い続けました。まるで『俺はここだよ』と言わんばかりに。 思いあぐねた結果「直接話しをしたい」という欲望が悪魔の囁きと化し、ある日の朝、デジカメを手に途中下車している自分がいました。 私は、平凡ではありますが普通の家庭を築き、少なくともそれを続けていくことに幸せを感じることができる年齢に達した一社会人であると自覚しております。 また本当に私事ではありますが、一人娘が生まれながらの障害児であります故、生活の基盤を持ち続け、親としての辛い生活の将来の決して明るくない愛娘の笑顔で癒す喜びを《与えられた最高の幸せ》として受け止めてきました。 毎日7時に家を出て、夜遅く疲れきっての帰宅。多くの男性社会人がそんな毎日を繰り返している中、朝から呑気にビルの屋上に上っている男がいる。厳しい現実の中で、同じ人生を送っている同性とは思えませんでしたし、私の中で彼との接点は見つかりませんでした。正直に言えば、ほとんどの乗客と同じように私も彼に無関心だったのです。或いは、気になっても近づくことが出来なかったのです。 それがどうして、このような衝動に駆られてしまったのか。電車からは彼の歌声など聞こえるわけもないのに、どうして会いたくなったのか。 今になって思えば、私が惹かれたのは、手を振る彼のいい年をした大人が放つあの純粋に無垢な笑顔だったのかも知れません。 「彼に会いたい」その一心で、彼の上っているビルを探しました。 ようやく見つけはしたものの、ビルのシャッターが小さく開いているばかり、不法侵入ともいえる行為に躊躇しつつも暗い階段を上っていきました。 お世辞にも立派とはいえない雑居ビルの暗い階段を上り、屋上に続く人一人登れる位の梯子をよじ登ると、眩しいほどの朝日の中で彼は歌っていました。 相変わらずの反社会的な格好に反した透き通るような優しい歌声が耳に飛び込み、気が付けば彼に声を掛けていました。屋上で握手するサンマ男とサラリーマン、彼も驚いた様子でしたが車窓からはどのように写ったことでしょう。 今になって思い返せば、なんたる愚行におよんだものかと赤面してしまいますが、その時は何の違和感もなくサンマ男と楽しいひと時を過ごすことができました。ただ一言「気持ち良かった!ざまーみろ電車の中の自分!!」 伊藤清光さんが私と同世代であること、ちょくちょくメディアでも話題に上がっている方であること、また目黒川でも昔は秋刀魚がとれたこと。また、お顔に似合わず綺麗な歌声(またまた失礼)同様にごついわりに柔らかい手。 図々しくも屋上に押し掛けて依頼、清光さんとは今でもお付き合いを続けさせて頂いています(と勝手に解釈しています)。 これから先、清光さんがどんな歌手活動をしていかれるのか同世代の一ファンとして楽しみに応援させて頂きながら、10年20年先、またいつの日かあの屋上で、たった一人、誰のためでもない招待状のないステージで気持ち良く歌われる日を心待ちにしています。 ご本人には不本意かと思いますが、やっぱり清光さんにはあの屋上がお似合いです。 あの何物にも代えがたい光の喝采の中、まさに自分が自分であり続けることが出来る屋上シンガー 万歳!! |
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![]() 山田氏撮影 山田勝敏, 平成20年2月27日永眠, 享年 44才 |
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